台風の日に散歩をした話。
「やっぱり雷がベストだよなぁ」
出典は忘れた。
確か昔読んだ漫画で死にたいおっさんが言う台詞。
雷がベストな理由はすごくシンプル。
自殺→天国にいけない
他殺→協力してくれる人が居ない
大学生の時、この台詞にすごく共感した。
別に死にたかったわけじゃない。でも生きていたくも無かった。
雷の持つランダム性に自分の人生を預けてみたかった。
台風の日に友達と二人で近くの公園に行った。
公園の広場でビニール傘を広げた。
ひとたび風が吹くとビニールは飛ばされ、骨組みだけが残った。
それで十分だった。
この骨組みは、きっと、少しだけ、雷が振ってくる確率を上げてくれる。
私たちは手をつないだ。
これで雷に打たれる確立は2倍だと言って笑った。
遠くで空が光った。
音が聞こえるまで、かなり時間がかかった。
早くこっちに来ないかな。楽しそうに彼女が呟く。
”雷に打たれて死にます。さようなら。”
それだけを書いた連名の遺書を彼女のアパートの部屋に残してきた。
たった一行だけの遺書。一枚で二人分の遺書。
死ぬ気が無いのだから、遺書も手抜きになる。
次に光った雷はさっきよりも遠くに行ってしまった。
その次の雷はさらに遠くへ。
やがて私たちは家路へつく。
今日も死ねなかったね。私が呟く。
死ぬ気、なかったしね。彼女が呟く。
つないだ手はいつの間にか離れていた。