出張が楽しすぎたので仕方なく愚痴を書く_第3章_九州ではデリカシーが死滅するウイルスが流行しているに違いない。
※田中さん(仮)の名前を書き間違えていたみたいです。
コメントでご指摘頂きありがとうございます。
仮名メモ
田中さん→仕事ほっぽって敵前逃亡。銃殺刑
山田さん→田中さんの前世。フランス人
鈴木さん→工場の結構偉い人。
いいわけ
あと高ハスさんの記事でテンション使い切っちゃったので、出張の序盤ではありますが既にぐだぐだな雰囲気が漂う文章になっています。っていうかあんまり仕事のところ詳しく話すと訴えられちゃうからね。怖いね。
あらすじ
・工場出張。
・田中逃亡。
・山陽新幹線に出会いなんてなかった。
前記事
日付は変わらず9月17日。時間は秘密。
新幹線を降りて改札を抜けると鈴木さんとその家族が私を迎えてくれた。
まるで地元に帰省したかのような感覚。
鈴木さんはこれから行く工場のそこそこ、っていうか結構偉い人。
何故か休日に出張者を自ら迎えに来てくれる。本当に偉い人だ。
奥さんにお土産を渡し、ガキ共に図書カードを渡す。賄賂だ。
家族総出でお出迎えされたのはこれが始めてだ。
っていうか鈴木さんの車5人乗り。
わたしはガキ共に挟まれるようにして車に乗せられる。
連行される泥棒の気持ちが分かる。
私の両側に設置された特設スピーカー。
これが家族の居る幸せって奴なのだろうか。
私には分からない。
どうせキットが届くまでに時間があるから家でお茶でも飲んでけという鈴木さんと奥さん。
遠慮ではなく本当にお邪魔したいのだが、キットの改造が終わっていないこと。というかどこをどうすればいいのかすら分からないことを伝え、私は一足先に工場で下ろして貰う。
車の窓をあけ、身を乗り出して手を振ってくれるガキ共。
ゆるいカーブを過ぎて車が見えなくなるまで私は手を振り続けた。
きっとこれが家族の居る幸せって奴なのだろう。
あー。なんか私が一人で工場で車を降りたみたいな書き方になってしまったが、鈴木さんも一緒に降りてくれている。
鈴木さんの車は奥さんが運転してあの丘の向こうに消えたのだ。
鈴木さんと一緒に居ると各種設備の入館許可証が一瞬で手に入る。
しかも自由に徹夜できるし普通の出張者は入れないような部屋ー例えば加工室ーにも入れるようになる。
さすが鈴木さん。伊達に結構偉い訳ではない。
ちなみに鈴木さんは今日は完全にお休みの日でこの出勤は完全にタダ働きである。
なんでも私が以前に居た部署の先輩と交友が厚く、その後輩連中には特別待遇で優しくしてくれるらしい。
義理と人情の人だ。(ここは福岡県ではない)
鈴木さんに連れられてとりあえず一服するかと言うことになった。
私は禁煙中なのでと言ったのだが、何故か喫煙所まで連れてこられてしまう。
缶コーヒーを奢って貰い、鈴木さんがタバコを吸い終わるまでチビチビコーヒーを飲む。
このオッサン。わざと私に煙を吐きかけ楽しんでいる。
悔しいので私は知らん振りをする。
それにもう、他人の煙くらいでは吸いたいとは思わなくなっている。
そういえばと鈴木さんが不意に口を開く。
昨日の帰りに業務連絡用のホワイトボードに"明日、美人さんが出張に来るから心得て置くように"と書置きをしたのだそうだ。
このオッサン。もう。本当にこのオッサン。
私の1個下の後輩に本当に綺麗な子がいる。
目がぱっちりで、髪の毛さらさらで、おっぱいでかくて、性格も明るい。
神様は不公平だ。
工場の人たちは絶対にそっちを想像しているだろう。
あの子を想像していて、現れたのが私だったらと思うと…彼らが不憫でならない。
神よ。哀れな子羊に救いの手を。アーメン。
ちなみに彼女の声は中甘猫+ゆっくり目。中くらいの音程で甘めの猫なで声を出す。
私の守備範囲外だ。
工場に入ったら制服に着替える。と言ってもジャケットを羽織るだけだけど。
キットが届くのは早くて夕方らしい。急ぐ必要は無い。
出勤者リストを見たら知った名前がちらほら見えた。神よあれが子羊です。
鈴木さんの部署の事務所に案内される。
とりあえずお土産を事務の子の机にドサッと置く。
この工場の78%はオッサンで構成されている。
残りの20%がオッサン予備軍で、さらにその残りの2%が女の子だ。
ゆえに女の子同士の横のつながりは非常に強く、一人にお土産を渡しておけば工場全体に行き渡る。はずだ。
数が足りるかは別として。
出張者用のデスクに座ってパソコンの電源を入れて懐かしのXPの起動音を聞く。
本当に久しぶりに聞いたなーこの音。
と思いながら田中さんの後輩から貰った書類を広げる。
田中さんの自己チェックは全て”A"の印が付いている。要するに"完璧です"って事。
もちろん信用なんてしていない。
敵前逃亡したやつの自己チェックだ正直確認したくない。
そうは言っても仕方ない。
これが私のお仕事なのだ。
田中さんの遺産(データ)を確認しようとパソコンをサーバーに接続する。出来ない。
うん。いい子だから言う事を聞いておくれ。F5を連打する。つながらない。
よくみると右下にネットワークにつながってませんマークが出ている。
パソコンの後ろを見ればLANケーブルが外されて、ガムテープで封印されている。
物理的セキュリティーである。
XPだもんね仕方ないね。
私の持ってきたお土産を物色しながらその様子を見ていたらしい鈴木さん。
ニヤニヤしながらもう一つの出張者用パソコンを指差す。
本当にこのオッサンは。
もう一台のパソコンでデータの確認をしていると定時の鐘がなる。
と言っても何交代制なのかも良く分からないこの工場では、20分おきに鐘がなるのだけれど。
シフト上がりのオッサンがぞろぞろと事務所に上がってくる。
「あれ?ilaa、甘猫さんは?」(九州訛り)
「鈴木さーん男の子が迷い込んでますけどー。」(九州訛り)
「一人前に色気づきよって、髪なんか染めて。」(九州訛り)
言葉の暴力である。
オッサン予備軍はどん引きである。彼らは清く美しい。
私に優しい声をかけてくれる。
「お休みなのに偉いね。」(九州訛り)とか。
「小さいのに良く頑張ってるね」(九州訛り)とか。
ヤバイ、さすがに泣きそうだ。
彼らに悪意が無いのは知っている。ほんの冗談だ。
でも私は知っている。甘猫さんにはこんな事を絶対に言わないことも。
"気を使う必要が無い女の子”
この工場での私のポジションだ。女の子かどうかは置いといて。
自分で言うのもなんだけど、これはとても便利ポジションだ。
誰にだってそこそこ優しくしてもらえるし、それを遠慮する必要も無い。
休憩室のベンチで寝てても怒られないし、タバコにも誘ってもらえる。
でも、きっとここで泣けば、それは剥奪されて”普通の女の子"ポジションに移行するのだろう。
それは嫌だ。
それはきっと不便だし、工場でちょっとだけ特別扱いされる優越感も味わえなくなる。
それは嫌だ。
私は怒った振りをして、「ちょっと歩いてきます」と言って席を立つ。
涙で一杯の目を見られないように。
早足で事務所を出てダッシュで階段を上る。
自然を装ってちょっとだけ振り返る。
誰も追いかけてこない。非情な奴らだ。ほっとする。
ぶらぶらしながら仕事の事を考える。
(故)田中さんの仕事は思っていたよりまともだった。
というよりデータだけを見る限りでは殆ど完璧だった。
キットの改造も鉄板を継ぎ足してねじ止め用の穴を開けるだけのはずだ。
(故)田中さんが死んでしまった以上、何故、彼がそれを出来なかったのかは謎だ。
10分もぶらぶらすれば涙腺スイッチもOFFになる。
念のためトイレの鏡で目と鼻が赤くなっていないか確認する。
きっとオッサン連中も反省してくれただろう。
事務所に戻って仕事の続きをしよう。
事務所のドアを開けた瞬間私にかけられる言葉。
それは、先ほど私へと向けられら心無い言葉へ数々、それらへの謝罪だと思っていた。
まさか「家出息子が帰ってきたぞ」(九州訛り)と言われるとは思わなかった。
私は泣いた。