飛べるくらい軽くなりたい

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飛べるくらい軽くなりたい

来世は蝶々に生まれたい。そして一生青虫で居たい。

・ブプロピオンを使った禁煙に関しては"こちら"に移植しました。
・コメントブコメ大歓迎です。
・個人的に読んで欲しい記事
出張が楽し過ぎたのでセミ1セミ2下戸の愚痴綿棒

第四話。曖昧な記憶という名の妄想。

独り言

 シリーズが感動の完結を迎えたので。全話分のリンク。







 

7日目:9月28日(水):手術後

起きた。
腕時計を見る。
体が動かない。
うーん。ああ麻酔か。
そうか入院してたんだっけ。
きっと麻酔がまだ効いてるんだろう。
時計と眼鏡が欲しい。
すぐに眼鏡を発見。というより眼鏡をかけたまま寝かされていたようだ。
カーテンのせいで外が見えない。
麻酔がまだ完全に切れていないのか痛みは無い。っていうか全身の感覚が無い。

ベッドの横のパイプ椅子で上司の奥さんが船を漕いでいる。
麻酔が切れるのを待つ必要は無いと言ったのに優しいお方だ。
なんだかよく分からないが奥さんから違和感を感じる。
座っているからだろうか、無防備に寝ているからだろうか。
手術前と雰囲気が違う気がする。

どうせ気のせいだと思い、それについて考えるのを止める。
奥さんが起きたら改めて礼を言って帰っていただこう。
それからナースコールを押して私の処置をしてもらおう。
奥さんは何時間くらいここで待っててくれたんだろうか。
時計が欲しい。そういえば私の時計はバッグの中だ。
パジャマに着替えたときに外したのを思い出す。
麻酔に支配された私の体ではバッグまでの距離は遠過ぎる。
私は時計探しを諦めた。


それにしても奥さんへの漠然とした違和感が払拭できない。
手術前と何かが違うはずだ。
相手が寝ているのをいい事にまじまじと観察する。
しっかり見ようとすればするほど、細部がぼやけていく。
これで気が付いた、ああ、これは夢だと。
よく観ればカーテンも病院のものではなく我が家と同じものだ。


もう一度奥さんのほうを向く。
そこにはもう奥さんは居ない。椅子も無い。
やっぱり夢だ。
奥さんが居たのと反対側を見る。そこにも誰も居ない。
もう一度、奥さんが居た側を見る。やっぱり誰も居ない。
もう止めよう。悲しくなるだけだ。

これだけ頭を使っても目が覚めないのは麻酔のせいだろうか。
というより麻酔が効いているときにノンレム睡眠になるのだろうか。
あるいはもうすぐ麻酔が切れるのかも知れない。

明晰夢から抜け出す方法を私は2個だけ知っている。
本当に起きるか、明晰夢の中で眠るかのどちらかだ。
体が動かないのは金縛りだろうか、きっとまだ寝足りないのだろう。
私は夢の中で目を瞑った。

 

 

 

次に起きたのは上司の声だった。
私の名前を呼びながら私の頬を叩く。
歯を治療した人間の頬を叩く奴が居るだろうか?ここに居る。
何で奥さんはこんな人と結婚したんだろう。
上司に起こされて目を開ける。眼鏡を渡してもらい掛ける。
どうやらこれは夢じゃないらしい。というより夢に上司が出てきたらもう死ぬしかない。


上司は多分仕事帰りだろう。咄嗟に声が出る。
「あーお疲れ様です。」これはもう条件反射である。
呂律が回っていないのが自分でも分かる。
悪態(多分)をつきながらナースコールを押す上司。
上司が(多分)私に向かって何かを言っている気がするが理解できない。理解する努力すらできない。
上司の顔を見つめていると大きくなったり小さくなったりする。
上司の服装を下から順に見て記憶する。
少しだけ目を逸らして思い出す。
靴は茶色。スーツはストライプの・・・色が思い出せない。
どうやら短期記憶も仕事をしていないらしい。
とりあえず自分が完全にラリってる事だけは理解できた。
上司の奥さんが心配そうな顔をしている。違和感は…無い。と思う。

 

医者と看護婦さんが来た。
医者に何かを言われている気がするが言葉は私を素通りする。
看護婦さんは私の血圧を測っている。体温も測っている気がする。
視界が歪むからか気持ち悪くなってきた。
「気持ち悪いので寝させて欲しい」と呂律の回らない口で伝える。
医者の許可を貰ったので目を閉じる。


目を閉じると自分の体がズーンと重くなって水の中に沈んでいくような感覚に包まれる。
沈んだ私の体と水の境界が消えていく。私が無くなっていく。
ものすごく気持ちいい。これがモノホンの多幸感か。
腕にチクっとした痛みを感じる。採血だろうか。
あー上司にお礼言うの忘れた。お見舞いに来てくれたのに。一旦起きようか。
水上で上司が怒鳴っている気配を感じる。今は関わりたくない。後にしよう。
上司の怒鳴り声が懐かしく感じるのはもう病気だろうか。

 

後は全部忘れた。

多分続く。

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