レバニラとおばちゃんと私
私のうちの近所に中華料理屋があります。
思いつくだけ6件の中華料理屋があります。
それくらい中華料理は日本文化に浸透しているのです。
下手をしたらラーメン屋より中華料理屋の方が多いかも知れませんね。
でもラーメンも一種の中華料理だし、次郎はラーメンに含むのかとか、どう考えても不毛な議論ですよね。
しかし、しかしですよ。中華料理屋は数多あれど。
レバニラ炒めが美味しい中華料理屋さんってなかなか無いと思うんですよね。
美味しいていうか私が好きなレバニラを提供してくれる中華料理屋さんがね。
レバニラの美味しさって言うのはレバーの臭みとニラの臭みがベストマッチしてこそのものだと思うんですよね。
だから、「新鮮なレバーを下処理して生臭さを消して食べやすくしています。」て言うのは私の中では邪道中の邪道な訳です。
レバーの匂いが嫌いならレバー食うなよ。と。
後は食感。レバーの食感はあくまでモソっとしていて欲しい。
聞いた話によるとレバーをあらかじめ油で上げるような処理をしておくとシャキっとした感触になるそうです。
でもさ、シャキとした食感はニラとか輪切りのニンニクとかその辺から取れるじゃないですか。
そいつらがシャキッとしていてレバーがモソっとしているの。これこそ調和じゃないでしょうか?
全部がシャキッとしたレバニラなんて全員がギターボーカルなバンドのようなものです。いや、見てみていけど。(主にいろんな意味で)
そんな完璧なレバニラを提供してくれるお店が1件だけあるんです。
そのお店、定休日は日曜日、昼間は普通の定職屋で夜は定職屋+居酒屋っぽくなるのでいつも土曜の昼に通っていました。
中には昼間からビールとか紹興酒?を飲んでるお客さんも居ますけど。大抵がお一人さんなので騒がしくはありません。あと、今となってはもうどうでもいいんですけど全席喫煙可なのもうれしかったです。
いわばそのお店は、私のレバニラへの欲望を全て満たしてくれる。”レバニラワンダーランド”だったのです。意味不明。
そんなレバニラライフにも転機が訪れました。
その日、私は仕事を定時内で終えて、久々に定時ダッシュをしたんです。
どうしてもレバニラが食べたくて。食べたくて。食べたくて。仕方なかったんです。
夜は居酒屋っぽくなって酔っ払いが大声を上げているとはいえ、まだ時間は6時前。
きっとおっさん達もまだデスクに向かっていることでしょう。酔っ払いたちの宴が始まる前になんとしてもレバニラを胃袋に納めねば。その一心で駅からダッシュ。実際には200メートルくらいしか離れてないんですけど。
適当な席に着いたらお絞りをお茶を持ってきてくれたおばちゃんに私はメニューすら見ずに「レバニラ定職お願いします。」とオーダー。ちょとかっこいいかもとか思ってました。愚かしい。
おばちゃんは私の注文を伝票に書き込みこういいました。「今日はお仕事早かったの?いつも土曜日にしか来ないからびっくりしちゃった。」
びっくりされちゃった。
その後の記憶はありません。
多分レバニラを食べて、お会計をして、自分の部屋に帰ったと思います。
ショックだったんです。自意識過剰なのは分かっています。職業柄客の顔を覚えてても。不思議ではありません。
でもね。私お客。あなた店員。そのラインを踏み越えて欲しくなかったんです。
あくまで業務的な対応をして欲しかったんです。
私の顔を覚えていることを知ってしまうと。
「あの子いつもレバニラしか食べないけど頭おかしいの?」とか
「いつも土曜日の12時ぴったりに来るけど他にすること無いのかしら」とか
「近所の定職屋だからってスッピンでくるなよ」とか
「いつもの格好もひどいけどスーツ着てもひどいわね」とか
おばちゃんの考えが私の頭の中に流れ込んできてぐるぐると回り始めるんです。
もちろん分かっています。それは自意識過剰な私の被害妄想だと。
たとえ、本当おばちゃんがそう思っていたとしても、レバニラの美味しさの前には、それは些細な問題です。
大丈夫。レバニラは美味しい。大丈夫。レバニラは美味しい。今日こそは。。。
と土曜日が来るたびに悶々としていましたが、結局再び私がその中華料理屋さんに行ったのは数ヵ月後でした。
しかもオーダーしたのは肉野菜炒め定食という意気地の無さ。
こちっもレバニラに負けず劣らず美味しかったんですけど。